ミシマサイコの会

ミシマサイコの育て方

ミシマサイコは、人参、セロリなどの野菜や茴香(フェンネル)、パクチー(コリアンダー)などのハーブなど、茎の先に散形花序を持つセリ科(Apiaceae/Unbelliferae)に属し、多数の黄色の花をつける多年草植物で、日当たりの良いやや乾いた草地に生育します。「ミシマサイコの会」では、前身の「ミシマサイコを広める会」(大沼会長(「ミシマサイコの会」顧問))の種配布を継承し、毎春、ミシマサイコ種まき体験会を開催しております。その折、ご紹介しているミシマサイコの育て方・管理の簡易版ハンドアウトを添付いたします。


また、より大規模な栽培に関する情報については、下記等に詳細な記載があり参考になります。

  • ◎国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物総合情報データベース:植物検索>ミシマサイコ>植物体栽培及び植物の効率的生産法_栽培情報/栽培暦
  • ◎農林水産省>薬用作物のページ>薬用作物の産地化事例集(平成31年2月)19 あさぎり薬草合同会社(熊本県あさぎり町) ミシマサイコ

栽培研究の軌跡〜摘芯・摘花〜

日本漢方生薬製剤協会生薬委員会より報告されている日本における原料生薬の使用量に関する調査報告(日本生薬学雑誌 73(1), 16-35(2019) )によれば、平成28年度(2016)ミシマサイコの総使用量は、平成25年度(2013)の637.0トンからは減少しているが、608.6トンにおよんでいる。そのほとんどは中国からの輸入に頼っている状況で、平成28年度(2016)にかけて11.568トン(1.9%)に国内生産は減少しているが、平成24年度(2012)には28.877トン(4.8%)に達していた。

後述の近畿大学東洋医学研究所 久保道徳氏らによると、ミシマサイコ植栽による柴胡の栽培は、第二次世界大戦前から検討され、昭和50年(1975)までは、年間0.5トンしか生産されていなかったが、昭和51年度から生産量が増え3トンにまでなり、昭和53年度には作付面積20町歩(約20ha)収穫量6トンに達したらしい。

栽培研究の始まりとなる文献として、下記を拝読することができた。本論文では、箱根山麓のミシマサイコ自生地を求め採集した種を用い、栽培研究のスタートが切られていた。詳査は、リンク論文を参照頂くとし、ミシマサイコ栽培の歴史の一端として序文と摘要内容を記し留めておきたい。


八田亮三(武田研究所京都試験農園):ミシマサイコの栽培に関する研究(第一報)(根の發育と抽薹との関係) 生薬 1(1). 16-19 (1947) (できるだけ論文の旧字体を求めたが対応できていない箇所はご容赦頂きたい)

[序文]
柴胡は従来内外産共に野性品の採集されたものが用ひられて居つたが、今後は需要の増加により、殊に我國に於ては自生品のみに依存することは至難であり、又一面野生品の採集には、殊にミシマサイコの様な小さな植物の集荷には労力其他に相當不利な條件の伴うのは又止むを得ないことと思う。著者は過般箱根山麓の所謂ミシマサイコの自生地を踏査して一層此念を深くし、其後多少の栽培學的な研究を試みて居る。逐次成績を纏め一般の参考に資し度いと思ふ。
ミシマサイコは抽苔して多數結實する習性があるが、元來根を藥用目的にするのであるから此の性状は吾々としては餘り好ましく無いことになる。抽苔結實が根の肥大生長に悪影響のあるこは一般藥用植物に於ても認められて居り生殖抑制の爲めには色々な技術的方途も講じられて居る。本報ではミシマサイコの摘花が根の發育に及ぼす影響に就いて検討することにした。尚ミシマサイコには遺傳的に抽苔し難い個體が少數混在することを見出した。

[摘要]
(1) ミシマサイコの抽苔したものを摘花して生殖を全く抑制すると、根の肥大が無處理に比べ77%増加した。(2) 根の肥大増加の起因は、生殖の爲めに榮養物質が消耗されず消費部面がそれだけ節減されたことと、一方に於て根生薬の發生數と葉型との増大に據り全體としての葉量を増加し、爲めに同化物質の生産部面でも向上されたことに據る。(3) 花蕾發生時に生殖抑制の目的で地上20cmの所から剪去したものは、無處理よりも根は良く肥大し33%増加したが、生殖を全く抑制したものに比べれば可なり及ばないものがある。(4) 1.5〜2.0gの充實した種根を用いた場合その大半は抽苔したが、全く抽苔しない個體が7.5%、秋末になって不時抽苔した個體が2.5%混在することを見出した。(5) この抽苔しない個體が種根の榮養状態の不備によるとは解し難い事、及び秋末になつて不時抽苔する事等から推して、ミシマサイコには抽苔抑制に闘與する遺傳因子か介在することを暗示すると思われる。(6) 不抽苔個體は根の發育が良く、抽苔無處理に比べ133%増と言ふ成績を示して居る。此の肥大率は摘花により生殖を全く抑制した場合よりも遥かに高い。(7) 此の肥大理由は抽苔個體の生殖を抑制した場合と同様な現象が一層強化された結果と莖の形成に消費される栄養物質の損失からも免れ得た爲めである。   昭和21年12月20日


以降、ミシマサイコの栽培研究が重ねられ柴胡の生産量が増大し始めた頃に記述された“柴胡栽培のすすめ”(久保道徳・勝城忠久・谿忠人(近畿大学東洋医学研究所):和漢薬詳解(18) 柴胡(その5)―柴胡栽培のすすめ― 和漢薬314 116-118(1979))では、栽培管理(除草・間引き・追肥・摘心・病害虫・収穫)の一項として、摘心についても記されていた。
“摘心:生育が良ければ一年生でも半数以上は茎が立ち開花するので、一般に摘花が行われているが、摘花はしてもしなくてもあまり関係ない。むしろこの頃、追肥の時期でもあるので充分の肥料を施しておく方が効果的である。しかし、二年栽培をするときは摘花しないと二年目に根の朽る株が多くなるので摘花する方がよい。”


前述の育て方の項で参考情報としてリンクを上げた医薬基盤研およびあさぎり薬草合同会社における柴胡栽培では、現在、摘芯はルーチン化されている。
◎国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物総合情報データベース>栽培暦:8〜9月摘芯(着蕾期)地上部が繁茂した時、地上50〜70cmで切除、摘芯期間中に2〜3回実施
◎あさぎり薬草合同会社>ミシマサイコ(2年生)栽培マニュアル29年版:播種時期、生育状況によって、摘芯時期等は変化するため、ミシマサイコの生育に合わせて摘芯回数、時期を判断する必要がある。(参考)1年目1回目(6月下旬 15〜20cm) 2回目(7月中旬 20〜30cm)3回目(7月下旬 25〜35cm)または(8月上旬 25〜30cm) 4回目(8月中旬 35〜40cm)、2年目1回目(4月下旬 15〜20cm) 2回目(5月初旬 20〜25cm)3回目(5月下旬 25〜30cm) 4回目(6月初旬 30〜35cm)5回目(6月下旬 35〜40cm)最終(7月初旬 40cm)摘芯後は殺虫・殺菌剤を散布。


「ミシマサイコ」の病害虫対策

家庭菜園レベルで植栽し、花を愛でいている範囲で気づく病害虫としては、開花時期の5月から8月にかけて発生する1cm前後のアカスジカメムシが目に付く。セリ科植物の花や種の汁を吸う吸汁害虫と言われている。
日本植物病名データベース でミシマサイコを宿主とする病名・病原菌を検索すると、5件がヒットした。

病 名 病 原
−(未提案) Cucumber mosaic virus (CMV), Panax virus Y(PanVY)
萎黄病(io-byo) Phytoplasma
−(未提案) Septoria sp.
根朽病(nekuchi-byo) Didymella sp.
根腐病(negusare-byo) Fusarium solani

また、 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 薬用植物総合情報データベースによると、病害虫について、以下のように記載されていた。

 “根の病害には根朽病があり、これはPhoma terrestris, Fusarium oxysporum, Phomopsis sp.などの複合感染によるものとみられており、地際の根頭部に褐色〜黒褐色のやや凹入した病斑を生じ、次第に根全体に拡がり乾腐する。地上部の主要な病害には炭疽病がある。抽苔の開始頃より発生し、先端部、茎、分枝が黒変枯死する。軽症時には根に対する影響は少ないが、発病が甚大な時には根の生育が劣り、採取が皆無となる。病害にはほかにPhomopsis属菌による葉枯れ病や白絹病、Mycoplasmaによるとみられる黄化萎縮病がある。”


実際に薬用作物の国産化推進に対応し、あさぎり薬草合同会社(熊本県)において、 ミシマサイコ(2年生)栽培マニュアルが公開されている。そこでは、ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、コガネムシ類幼虫、マルチ被覆を行った圃場で繁殖しやすい害虫(ハスモンヨトウ、ネキリムシ・アブラムシ類)、炭疽病が挙げられていた。


薬用植物ミシマサイコにおいて、上記のような多様な病害虫が知られているものの、医薬品原料としての品質基準をクリアする必要があり、農薬類の使用はかなり限定されている。栽培管理において、IPM (Integrated Pest Management:綜合的病害虫・雑草管理)的取り組みの実践が重要である。IPMとは、国際連合食糧農業機構(FAO)の定義によると「すべての利用可能な病害虫・雑草防除技術を慎重に考慮の上、病害虫や雑草の密度増加を抑え、かつ農薬およびその他の防御措置を経済的に適正で人の健康と環境への危険を軽減あるいは最小にする水準に維持する適切な手段の統合をいう。IPMは農業生態系の撹乱を可能な限り少なくしつつ健康な作物の生長を重視し、自然の病害虫抑制メカニズムを助長するものである」と要約されている。


【ミシマサイコの露地栽培における予防⇒判断⇒防除の実践措置<私案>】

@予防(病害虫・雑草の発生しにくい環境の整備):
ミシマサイコは、温暖な気候の丘陵地の草地に自生していた山野草で、日当たりのよい排水良好な土地で、土質は耕土がやや深く、肥沃な壌土〜埴土が栽培に適する。圃場整備において、圃場周辺の雑草除去と合わせ、前作の収穫残渣なども速やかに圃場外に持ち出して適切に処分し、あらかじめ病害虫や雑草が発生しにくい環境を整える。種子は、2年生以上の株から採種し、発芽適温20℃前後の頃、播種する。健全種子を取得することが第一義であるが、根腐病や炭疽菌などの防カビ効果を期待し、播種時にベンレートT水和剤に浸漬することができる。発芽まで約1ヶ月を要し、初期生育が緩慢で雑草の生育に負けてしまう為、生育初期の雑草防除が病害虫の発生源対策のみでなく、発芽株数確保において最も重要な環境整備である。播種後の除草剤の散布は雑草防除に有効であり、適用除草剤として以下の使用が認められている。


除草剤希釈倍率使用時期使用回数使用方法
ゴーゴーサン乳剤30300mL/10a播種後出芽前1回全面土壌散布
ゴーゴーサン細粒剤F3〜5kg/10a播種後〜発芽前1回全面土壌散布
バスタ液剤300〜500mL/10a収穫7日前まで3回以内雑草茎葉散布

施肥は、ミシマサイコの初期生育が緩慢なため、緩行性肥料や有機質肥料の施用が望ましい。化成肥料は根の成長を促進するが、根が硬くなる傾向があり、特に、窒素肥料の多用は避ける。


A判断(防除の要否、タイミングの判断):
マイナー薬用作物に関する病害虫発生予察情報は特に無いが、ハスモンヨトウ、アブラムシ類や炭疽病などは県が発表する病害虫発生予察情報に含まれる。静岡県では、経済産業部/農林技術研究所/病害虫防除所/予察情報として、毎月、見ることができる。2021年2月は、炭疽病について1月中旬平均発病株率は1.9% (平年 0.9%)と平年より多く、一方、アブラムシ類について1月中旬平均寄生株率は 1.1%(平年 1.7%)と平年よりやや少ないが、両者ともに1か月予報では、気温が平年より高いため、発生が助長されるとのことであった。基本、自分の圃場をよく観察し病害虫の発生状況の把握に努め、防除の要否と時期を適切に判断する。


B耕種的防除:
根腐病等の発病株は見つけ次第、早期に抜き取って圃場外に出し処分する。ミシマサイコの連作による病害虫発生・収量低下が知られており、ショウガ等との輪作も検討されている。


C生物学的防除:
センチュウ害発生圃場を使用しないことが前提であるが、土壌中のセンチュウに対して効果を示すマリーゴールド、ヘイオーツなどを対抗植物として植栽し、センチュウの発育を阻害する方法も有効である。


D物理的防除:
雑草防除や初期生育促進の観点から、有孔ポリマルチの活用や籾殻被覆が有効であるが、マルチ被覆に伴い、ハスモンヨトウ等の害虫繁殖のしやすい状況や側根の発生が多くなる傾向があり、労力負担・除草剤使用等を念頭に、栽培法の選択が必要となる。ミシマサイコは、「柴胡」生産において、根の生育を促す為、繰り返し摘芯が行われる。花に群れるアカスジカメムシは、種の確保において問題となり、採種用の苗は、防虫ネット等で覆うことが必要な場合もある。また、物理的防除ではないが、木酢液を瓶に入れて圃場に置くとカメムシがニオイを嫌って近づきにくいという報告もある。


E化学的防除:
        <ミシマサイコに適用が認められている殺虫剤・殺菌剤>

農薬(殺虫剤)適用病害虫希釈倍率 使用時期使用回数使用方法
オルトラン
水和剤
アブラムシ類1000倍 収穫30日前まで3回以内散布
アドマイアー
顆粒水和剤
アブラムシ類1000倍 収穫30日前まで3回以内散布
フォース粒剤ネキリムシ類 6 kg/10a 萌芽期1回株元散布
コテツフロアブルハスモンヨトウ2000倍 収穫21日前まで2回以内散布
土壌消毒剤
D-D剤
ネグサレ・ネコブ
センチュウ、
コガネムシ類幼虫
15〜20L/10a
作付けの10〜15日前まで
1回全面処理
作条処理

農薬(殺菌剤)適用病害菌希釈倍率 使用時期使用回数使用方法
トップジンM水和剤炭疽病1000倍 収穫30日前まで2回以内散布
ダコニール1000炭疽病800倍 収穫30日前まで3回以内散布
アミスター20フロアブル炭疽病2000倍 収穫21日前まで4回以内散布

炭疽病は、生育初期に病害を受けやすく、また、高温多湿状態で発生が拡大する為、梅雨時期前、梅雨明け後、摘芯後のタイミングで防除する。それぞれの散布において、散布後、使用機材・散布器具等の洗浄を十分に行い、残液や器具の洗浄水は適切に処理し、河川などに流入しないよう留意する。


Fその他:
各作業の実施日、病害虫・雑草の発生状況、農薬・除草剤を使用した場合の薬剤名、使用時期、使用量、散布方法等に関わる状況を日誌として記録する。また、防除に関して、常に情報収集に努める。