ミシマサイコの会

東海道箱根西坂〜三嶋宿

平成30年5月24日に「箱根八里」が、静岡県内初の日本遺産に認定されました。箱根旧街道は江戸時代の初めに幕府が整備した東海道の一部で、三嶋宿(標高25m)から箱根峠(標高846m)を登り、小田原宿まで下る八里(約32km)を「箱根八里」と呼び、三嶋宿から箱根の関所までの旧東海道を「箱根西坂」(12km)と言われました。箱根八里の西側「箱根西坂」の起点である三嶋宿は、古くは伊豆国一の宮・三嶋大社の門前町として古くから伊豆の中心であり、江戸時代には、箱根を控えた宿として、また箱根を越えた「山祝い」の宿として賑わいました。当時、ここを通る旅人は柴胡という薬を、家族や知人の健康のために買い求めたといいます。
「ミシマサイコ」のふるさと三島は、黄瀬川流域低地や狩野川流域低地を除く、市域の大半を占める箱根火山地の林地や畑地には、富士・箱根火山の火山灰(ローム)を母材とする黒ボク土壌、淡色黒ボク土壌が広く分布ししています(三島市自然環境基礎調査報告書(平成15年3月))。現代、これらの肥沃な土壌で育った野菜は「箱根西麓三島野菜」として、その美味しさが高く評価されているとのことです。

「ミシマサイコ」に関する文献・記載情報

「柴胡」

サイコ(Bupleurum Root/BUPLEURI RADIX、和名:柴胡)は、日本薬局方(第十七改正1858p、平成28年3月7日厚生労働省告示第64号)に規定される医薬品(生薬等)であり、ミシマサイコBupleurum falcatum Linne; (Umbelliferae)の根で、生薬の乾燥物に対し総サポニン(サイコサポニンa及びサイコサポニンd) 0.35%以上を含むものと記されている。

「生薬サイコの品質〜薬用作物栽培の手引きより〜」

薬用作物栽培の手引き(一般社団法人全国農業改良普及支援協会)
◆和漢薬の良否鑑別法及調製方(一色直太郎編 吐鳳堂書店)
 ・鼠の尾のような形状をしている細長根。
 ・皮が赤黒色で内部が淡褐色で、味の苦い微に香気のあるものがよい。
 ・なるべく分岐していない真直な根で、内部の色の淡い朽ちていない太いものを選ぶ。
 ・油くさいものや瘠せた小さいものは良くない。
◆薬用植物栽培採収法(刈米達夫、若林榮四郎共著 南條書店)
 ・根部が肥大したもので、根のしまり良く切り口の白いものが良品。
 ・太くとも洞のあるものは不良品。



<古のミシマサイコの郷を尋ねて>

【2022/5/4(水)】
2022年のゴールデンウイークは3年ぶりに新型コロナウイルスの緊急事態宣言が発令されない連休となり、三島から南伊豆町のかつてミシマサイコが育まれていた辺りにドライブしました。
「ミシマサイコの会」ホームページの 「ミシマサイコ」情報ページ ”伊豆薬用植物栽培試験場(1948〜2002)”による自生地調査に記載のように南伊豆町には厚生省の国立衛生試験所”伊豆薬用植物栽培試験場(1948〜2002)” があり、ミシマサイコの自生地調査が行われました。1981年、野生の系統を育種の材料とするために伊豆地方の各地で採種が実施された中、南伊豆町石廊崎で29.9g、南伊豆町長者ケ原で0.5gが採種されたそうです。
 長者ヶ原山は、伊豆で最大のヤマツツジの群生地で、5月初めから5月半ばにかけて見頃ということでありましたが、丘陵一面が朱色に染まるには、少し訪れるのが早かったようです(5/4)。
 ”伊豆薬用植物栽培試験場”は、平成14 (2002)年に廃止され、その面影は見られませんでしたが、現在は、平成21年にオープンした湯の花観光交流館−伊豆最南端の「道の駅」下賀茂温泉 湯の花として観光案内所(南伊豆町観光マップを頂きました)、展示場、直売所、休憩所、足湯を備えた施設として賑わっていました。

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”伊豆薬用植物栽培試験場(1948〜2002)” による自生地調査と「ミシマサイコ」染色体数

日本で唯一の薬用植物等の総合研究センターである(独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターは、2005年4月に国立医薬品食品衛生研究所薬用植物栽培試験場から組織変更され、(独)医薬基盤研究所の生物資源部門として活動されている。当センターから提供される【薬用植物総合情報データベース】は、伝統生薬に関する数少ない有用な情報ソースである。
現在、当センターの研究部(国内3箇所:北海道研究部(名寄市)、筑波研究部(つくば市)および種子島研究部(中種子町))と1箇所の圃場(和歌山)で薬用植物を栽培・保存、各研究機関に種苗の供給や栽培技術の指導などが行われている。薬用植物栽培試験場の歴史において、平成14年まで厚生省の国立衛生試験所「伊豆薬用植物栽培試験場」が、伊豆最南端の「道の駅」下賀茂温泉 湯の花の近傍にあり、様々な植物や薬草の研究が長年培われてきた。


西暦 薬用植物栽培試験所:伊豆試験場の歴史
1874年 明治7年に医薬品試験機関としての官営の東京司薬場発足
1922年 薬用植物栽培試験場は、東京衛生試験所薬用植物栽培試験部の下、埼玉県粕壁(春日部)に初めて設けられ、試植研究等が開始
1939年 大阪衛生試験所の薬用植物栽培試験場を和歌山県日高郡矢田村に設置され、1946年の大阪衛生試験所業務停止に伴い、和歌山薬用植物栽培試験場は東京衛生試験所が管理
1948年 伊豆(賀茂郡南伊豆町)に薬用植物栽培のための土地を購入し、温室、庁舎新築、植物部に伊豆分場を新設(7月17日開場式)
1949年 厚生省設置法に基づき東京および大阪衛生試験所を統合し、国立衛生試験所と改称
1954年 薬用植物園に種子島分場設置、開場式挙行
1964年 北海道薬用植物栽培試験場を名寄市大橋に設置(7月1日開所式)
1972年 昭和天皇、皇后両陛下、伊豆試験場を非公式にご視察
1978年 筑波薬用植物研究施設(仮称)地鎮祭
1979年 春日部試験場閉場
1980年 春日部の薬用植物栽培試験場が筑波に移設され、筑波薬用植物栽培試験場稼働
1997年 厚生省の機関だった国立衛生試験所が改組され、国立医薬品食品衛生研究所が設立
2001年 11.10-11 薬用植物公開セミナー「薬用植物の宝庫 伊豆 IN 南伊豆町」を国立衛研、伊豆試験場、南伊豆町役場の共催により開催
2002年 3.31 伊豆試験場閉場 54年間に渡る業務を終了(筑波試験場に植物・生薬の標本および図書を、種子島試験場へは温室植物のほぼ全種類を移動)

衛生試験所年次業務報告によると、1970年頃、春日部〜伊豆試験場ではミシマサイコの栽培法検討が開始されたらしい。栽培法については、今後、その他の文献も合わせ「ミシマサイコ」栽培情報のページに追記updateしていくこととしたい。ここでは1980年代頃までの業務報告で非常に興味深かった伊豆における薬用植物の自生地調査において、確かに当時、伊豆・箱根の草原にミシマサイコが自生し、それらに基づく検討報告ができた時代があったことを記しておきたい。


西暦 優良品種の選抜に関する研究
1981 野生の系統を育種の材料とするために伊豆地方の各地で採種を実施
採種地            採種種子量(g)
・賀茂郡南伊豆町(石廊崎)   29.9214
・賀茂郡河津町(天子山)     1.5936
  同上54年の苗から55年当場採種 7.2409
・賀茂郡東伊豆町(バイオパーク) 0.8993
・伊東市(大室山)        0.4039
・賀茂郡南伊豆町(長者ケ原)   0.5029
1982 昭和55年度において収集した野生のミシマサイコ6系統(石廊崎,天子山,同当場採種,バイオパーク,大室山,長老ケ原)につぎポット試験によって系統の特性調査を行った.
草丈は6月10日から8月5日まで系統問に有意差は認められなかったが,8月18日から系統間に有意差が認められ始め,石廊崎,天子山,天子山当場採種,バイオパークの各系統は草丈が高かった.
生葉数は6月10日の調査開始の日から収穫まで全調査期間を通じて系統問に有意差が認められ,石廊崎の系統は他の系統に比較して著しく葉数が多く,これに次いで長者ケ原の系統が多かった.
葉長は天子山当山採種,石廊崎,天子山の各系統が長く,大室山,長者ケ原の2系統が短い傾向が認められた.
葉幅(最大葉の葉幅)は7月7日から11月24日までの全調査期間を通じて系統問に有意差が認められ,石廊崎,天子山当場採種の2系統が広く,長者ケ原,大室山の2系統が狭い傾向が認められた.
葉位は石廊崎系統が最も優れ,長者ケ原系統がこれに次ぎ,その他の系統間には有意差は認められなかった.
分枝数も石廊崎系統が最も優れ,その他の系統については葉位の揚合と同様であった.
収穫時の地上部生重は石廊崎系統が重く,大室山系統は軽い傾向が認められた.
また収穫時期における成熟果実重は大室山系統が他の各系統よりも重かった(5%水準で有意).
主茎の直径は石廊崎系統と長者ケ原系統とは他系統に比して大きい傾向を示した.
地下部の生面は石廊崎,長者ケ原の2系統が優れ,大室山,天子山当場採種の2系統が劣っていた(5%水準で有意).
主根頭重は天子山,長者ケ原,石廊崎の3系統が優れていた(5%水準で有意).
主根長は天子山系統が優れ,大室山,バイオパークの系統が劣っていた(5%水準で有意).
風乾成熟果実重は大室山系統が他のいずれの系統よりも重かった(5%水準で有意).
風乾地上部重(花器を除いたもの)は石廊崎の系統が最も重く,長者ケ原,天子山,バイオパークがこれに次ぎ,天子山当場採種,大室山の順に劣っていた.
生育調査,特性調査,収穫調査の結果を総合して考察すれば,生育良好で根の収量の多いものは石廊崎,天子山,長者ケ原の3系統であった.生葉数,葉位,分枝数多く,主茎の直径の大きい系統は根の収量も多い傾向が認められた.
伊豆地域に自生している数箇所(石廊崎,天子山,浅間山(賀茂郡東伊豆町),大室山,長者ケ原)の野生ミシマサイフの種子を採集し,採集地別に圃場及びポットで栽堵を行い,それらの生育特性について比較検討した.その結果,供試した範囲内では石廊崎の系統が生育・収量ともに最も優れており,他の4系統はいずれもほぼ同様な生育・収量を示した.また8月と9月の台風による塩害の程度も石廊崎の系統が最も軽微であったことも合わせ考えると石廊崎の系統は今後新品種の育成を行う際,育種材料として利用し得るものと推察される.
1986 伊豆・箱根地区に自生するミシマサイコを中心に各地より導入したサイコの染色体数について
・伊豆・箱根地区           2n=26
・九州北部              2n=20, 21, 32
・中国産(万里の長城)        2n=12
・栽培種               2n=26, 28
1989 昨年新たに見つかった自生地(賀茂郡南伊豆町入間)の株と未確認であった長者ヶ原,矢倉岳(神奈川県南足柄市)の株について染色体数を観察し,いずれも2n=26であることを確認

国立衛生試験所の業務報告に加え、1980年代、ミシマサイコ染色体数の地理的異数について文献報告があり、以下、補足資料として記す。
<ミシマサイコ染色体数の異数性−地理的変異>

由来      観察個体数
Bupleurum falcatum L. (根端)体細胞染色体数(2n=)
  19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33
@         (1)   (1) (9)              
A             1 9 2            
B               (6)              
C   3 (19) (1)                        
D 1 (2) 26 (23) 2                        
E   (21) (1)                        
F (1) 10 (7) 1 (1)                      
G                           2  
H               16              
I               (22) (1)            
J               15              
K               3 4            
L                             1
  @霧島 鹿児島県 A桜が岡えびの市 宮崎県 B阿蘇 熊本県
  C飯盛山湯布院町 大分県 D平尾台北九州市 福岡県 E糸田 福岡県
  F秋吉台秋芳町 山口県 G大佐町 岡山県 H一宮 高知市
  I三島 J滝知山函南町 K石廊崎南伊豆町 静岡県 L栽培種 津村研
  *数字は 1)の文献による染色体数、( )内の数字は 2)の文献よる染色体数

1) 太田茂樹、三橋博、田中隆荘((株)津村順天堂・津村研究所、広島大学理学部植物学) 日本産ミシマサイコの異数性的変異. 植物研究雑誌 61(7): 212-216 (1986)

2) 天野明美、藤本賢治、大橋裕、佐藤美香、水上元(積水化成品工業(株)中央研究所、長崎大学薬学部) ミシマサイコ染色体数の地理的変異 生薬学雑誌 43(2): 192-194 (1989)

わが国に分布しているミシマサイコには,静岡県三島と熊本県阿蘇を結ぶ直線より南に分布している2n=26を示す系統と,北九州・山口地方に分布している2n=20の染色体数を示す系統の少なくとも二つの地理的系統が存在していることが推定される.


3) 天野明美、藤本賢治、大橋裕、松永一成、水上元(積水化成品工業(株)中央研究所、長崎大学薬学部) 不定胚誘導法によって増殖されたミシマサイコ再分化植物個体における染色体数の変異 生薬学雑誌 43(1): 13-18 (1989)

・ミシマサイコの染色体数はその地理的系統によって異なり,三島系では観察したすべての個体で2n=26であったのに対して,平尾台系では2n=20のほかに2n=19が観察され,また,霧島系では2n=26の他に2n=25と23の個体が存在した.
・これらの植物から不定胚誘導法によって得られた再分化植物の染色体数は,三島系では種子由来植物と同様2n=26であり.平尾台系でも母植物の染色体数とおおむね一致していると推認されるのに対して,霧島系では同一植物から増殖させたにもかかわらず,2n=24から22までの広い変異が存在した.また,平尾台系および霧島系の再分化植物には,同一個体中に染色体数の異なる2種の細胞が混在しているものもあり,それらの細胞中には2動原体型染色体が存在しているものもあった.
・以上の結果は,培養にともなう染色体の安定性は,ミシマサイコの地理的系統によって異なっていることを示唆している.


【平成31年度 “薬用作物の産地化に向けた地域説明会”】

「薬用作物の産地化に向けた地域説明会および相談会」が、2019年11月28日にAP名古屋・名駅会議室で開催された。薬用作物の生産拡大に向け、薬用作物産地支援協議会(一般社団法人全国農業改良普及支援協会及び日本漢方生薬製剤協会により設立(平成28年2月))が農林水産省、厚生労働省、医薬基盤・健康・栄養研究所と一丸となって支援を実施し、メーカーと生産者のマッチングを進めていく今回の説明会は、関東・北陸地区を皮切りに北海道、中国・四国、近畿、東北、九州・沖縄地区で開催され、最終回として東海地区で開催された。
 説明会では、以下の議題で紹介された(資料)。
(1)薬用作物産地支援協議会   薬用作物の産地化までの道のり
(2)厚生労働省         漢方製剤等の現状について
(3)医薬基盤・健康・栄養研究所 薬用植物資源研究センターの研究業務について
(4)農林水産省         薬用作物を対象とした補助事業等について
「茶・薬用作物等地域特産作物体制強化促進事業」
(5)産地化取組事例の紹介:名寄市における薬用植物栽培振興の取組〜カノコソウの産地化について〜
 漢方製剤の原料として使用される生薬の調達状況の主要国は、依然、中国(20,633t(約77%, 2016))ではあるが、中国国内での需要も年約20%で伸長し、2006〜2016の10年で輸入価格が約2.3倍に高騰しており、国内生産の重要性はますます高まりつつあると云われていた。
 現状でのミシマサイコの生薬原料としての使用量および産地化事例を以下に記した。

日本漢方生薬製剤協会生薬委員会:日本における原料生薬の使用量に関する調査報告. 日本生薬学雑誌 73(1), 16-35 (2019)

・・・2008年〜2016年の集計では、サイコの需要の高まりは中国からの輸入拡大に依存上昇
20082010201220142016
総使用量(Kg)419,155493,042604,161601,076608,598
日本 5.5% 5.2% 4.8% 2.6% 1.9%
中国 89.4% 94.2% 93.3% 97.4% 96.5%
他国 5.1% 0.6% 1.9% 0.1% 1.6%

日本特産農産物協会:地域特産作物(工芸作物、薬用作物及び和紙原料等)に関する資料(平成29年産). 平成31年3月

・・・100a以上のミシマサイコ栽培面積を示す都道府県を記した。
都道府県名栽培戸数(戸)栽培面積(a)収穫面積(a)10a当たり収量生産量(Kg) 生産市町村
群馬815515517.4270高山村、東吾妻町
静岡734993699.7357裾野市、島田市、牧之原市、御前崎市、藤枝市など
徳島3354028038.61,080美馬市、阿南市、須賀町
香川21397---不明
愛媛1933,508-大洲市、西予市、久万高原町、内子町、東温市、西条市、伊予市、愛南町、今治市
高知581,6261,45630.24,398越知町、宿毛市、大月町、大豊町、佐川町、四万十町
熊本1946,410-あさぎり町、錦町、多良木町、人吉市など
宮崎2332232022.3713小林市、日向市
鹿児島3753146316.4760日置市、南九州市、薩摩川内市、出水市、鹿屋市、垂水市

農林水産省HP > 薬用作物のページ > 薬用作物の産地化事例集(平成31年2月)

  • ◎株式会社薬善(静岡県牧之原市):6ha
  • ◎富山薬草生産組合(富山県富山市):1a
  • ◎岐阜市(岐阜県岐阜市):44a
  • ◎農事組合法人ヒューマンライフ土佐(高知県越知町):36ha
  • ◎あさぎり薬草合同会社(熊本県あさぎり町):7,277a