ミシマサイコの会

ミシマサイコは何に効く?

「ミシマサイコは何に効く? 」と尋ねられることがあります。

トップページに記載のように “ミシマサイコは、そのが漢方薬に用いられる生薬:サイコ(柴胡)(基原)植物名です。

ミシマサイコの根= ”サイコ(柴胡)”は、中国最古の薬物書『神農本草経』の上品(長期服用が可能な養命薬)として、また、日本現存最古の薬物辞典『本草和名』にも収載される伝統ある生薬です。生薬“サイコ(柴胡)は、少陽病薬の基本処方として多用な漢方薬に配合されるクスリです。

一方、ミシマサイコの地上部の葉・茎などは、非医薬品扱いですので承認された薬能はありません。


腑に落ちる説明になっていませんね?!

このページでは「ミシマサイコは何に効く? 」に答えるための資料を一歩一歩アップしていくつもりです。説明を加えれば加えるほど難解になるかもしれませんが、皆さまからの情報提供・ご意見も頂ければ嬉しいです。 →→→ E-mail: mishimasaiko-31@ca.thn.ne.jp


<食薬区分>

厚生労働省「医薬品の範囲に関する基準」(平成31年3月22日)において、ミシマサイコの食薬区分が明記されています。
・別添2○専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)生薬:サイコ(柴胡)=ミシマサイコの根
・別添3○医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)「非医」=ミシマサイコの葉

即ち、ミシマサイコの根:サイコ(柴胡)は、規格値として総サポニン(サイコサポニンa 及びサイコサポニンd) 0.35%以上を含有する日本薬局方に規定される医薬品原材料で、多くの漢方処方に活用されています。漢方薬は1967年以降、薬価基準に収載され、サイコ(柴胡)単味での効能の報告は限られるようですが、膨大な処方薬の情報を交え、今後、科学的根拠の明らかな効能・情報を探し集め、学んでいきたいと思っております。

一方、ミシマサイコの葉(地上部の茎を含め)については、現段階では、はっきした効能を標ぼうできないから「非医」なのでしょう。同じ植物体の中、根に蓄積されるサイコサポニンなども測定感度を高めれば存在するかもしれませんが、微量で効能を示さないレベルではないかと想像されます。これまで地上部の葉・茎に関する研究は、あまり注力されておらず、研究の数は、かなり限られるようです。今後、少し毎でもミシマサイコ属/Bupleurumの地上部の成分に関する科学的根拠の明らかな情報等も探してみたいと思っております。何か、過去に研究された、又は、現在検討中とか、情報をお持ちの方がおられましたら、ぜひ、ご教示・ご指導をお願いいたします。

また、本草綱目に「若いときは茹でて食用にし、老ゆれば採って柴(しば)とする。それゆえに地上部は芸蒿、山菜、茹草の名があり、根は柴胡と名づけられる。」と記されております。山菜とか茹草として利用された歴史的史実についてご存知の方がおられましたら、ぜひ、ご教示・ご指導をお願いいたします。



【2022/9/15】

”現代本草集成 『増補能毒』 を読む”(東静漢方研究叢書3:源草社 (2001))より、”柴胡”の薬能解説を学ばせて頂きました。

最近気になった記事:“コロナに負けない”

新型コロナウィルス(COVID-19)が世界的に流行(パンデミック)し、国内での感染収束も未だ見えず、心配りが必要な日々が続いております。体を動かすこと自体は自粛しないよう、スギ・ヒノキ花粉対策をし、庭や畑の春の種蒔き、雑草取りをし、発芽を愉しみにしております。テレビやネットから溢れる情報過多時代、不安の拡大に伴い、根拠のない予防効果をうたう商品の広告が見られたり、ウイルスの除去やマスクの無料送付などをうたう不審な電話やメールが出回り、このような情報に惑わされないよう、消費者庁や国民生活センターから注意が呼びかけられています。

このような時期、安易にサイコ/柴胡がコロナウイルスに効くとか言うつもりはありません。
只、サイコ/柴胡情報を検索している中、効能に関わる気になった最近の記事があったので、ご紹介させて下さい。


【2020/3/19】【 日本感染症学会 】:小川恵子(金沢大学附属病院漢方医学科) 特別寄稿 COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方
“COVID-19感染症に対する生薬による治療(漢方治療)のまとめが【 中国の新型コロナウイルス診療ガイドライン】に掲載されています。しかしながら、これらの処方は生薬の組み合わせから作成しなくてはならず、漢方専門の部門を持つ医療機関でなければ対応が困難です。それらをわが国で用いられている医療用漢方製剤に置き換え、難解な内容をできるだけわかりやすく記載戴いております。”


【2020/3/24】【 日経メディカル】:竹田貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」第8回 コロナに負けない!氣晴らしの漢方「柴胡剤」
“氣うつに特徴的な所見として、からだのどこかが詰まった感じがします。初期には頭や喉が詰まり、さらに進行すると胸が詰まる(胸脇苦満:きょうきょうくまん)ようになります。胸の詰まりはイライラ氣うつと表現され、柴胡剤(さいこざい)という漢方薬で治療されるそうで、それらについて解説戴いております。” 


・・・生薬・漢方薬は、個々人の体質・体型などや、病期の進行状態に応じて様々な処方が必要であることがわかります。西洋薬の作用機作のように単一でピンポイント効果を示す薬剤と違う生薬"ミシマサイコ"の一言で説明できない奥深さに更なる深掘りの必要を感じました。


日経メディカル:竹田貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」
新型コロナウイルスへの漢方

【2020/5/8】第9回【前編】コロナへの「治る力」に作用する漢方薬の選び方
【2020/5/13】第10回【後編】「総合COVID-19漢方薬」はどうコロナと闘うか
先述の小川恵子先生より、中国の中医学に基づく新型コロナウイルス診療ガイドラインに掲載されている生薬の処方を日本で手に入るエキス剤に置き換え、日本人向けにした漢方薬について解説頂いております。更に、この2回のシリーズでは、竹田貴雄先生から、漢方の考え方の基本を加えながら、感染予防、重症化予防、重症化の兆候が見られた場合の漢方薬の例示がわかりやすく説明されております。


・・・この中で、処方名が同じでも漢方薬と中医薬では構成生薬や生薬含量が異なる例示としして補中益氣湯が挙げられています。東洋医学では、その人の体質に合った治療でなければ無効なだけでなく、中医学では含有生薬が日本で通常使用されている量よりも数倍多い場合もあり、重篤な副作用の危険性も懸念されるとのことで、生薬による治療を自己判断で購入・使用することは、厳に慎まなければなりません。

【補中益氣湯】:構成生薬(含量(g) 漢方(日本)/中医薬(中国))
人参(ニンジン)(4 g/10 g), 黄耆(オウギ)(4 g/15 g), 朮(ジュツ)(4 g/10 g), 陳皮(チンピ)(2 g/6 g), 甘草(カンゾウ)(1.5 g/5 g), 当帰(トウキ)(3 g/10 g), 柴胡(サイコ)(2 g/3 g), 升麻(ショウマ)( 1 g /3 g), 生姜(ショウキョウ)(0.5 g/ 0), 大棗(タイソウ)(2 g/ 0)

日本版新型コロナウイルス診療ガイドラインの確立が待ち望まれるところです。厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第2版 (2020/5/19) が公開されておりますが、中国の新型コロナウイルス感染症診療ガイドラインに記載の中医学による治療に対応する形の国内での漢方医学的治療については、未だ、触れられておりません。
日本東洋医学会のホームページでは、4月24日 付で”COVID-19 一般治療に関する観察研究ご協力のお願い”(軽症から中等症の COVID-19 患者(疑い含む)に対する西洋薬、漢方薬治療による症状緩和、重症化抑制に関する多施設共同、後ろ向き観察研究)が掲載されております。 エビデンスの集積は、たいへん難しい課題であると思いますが、未病の状態から重症化に至る過程で漢方薬の有用性、西洋薬の補完療法となる場面があると期待しております。

サイコ/柴胡を含む医療用漢方製剤

漢方薬は、中国の伝統医学の影響下に日本人の体質に合わせて日本独自の発展をとげてきた医療体系である漢方医学の理論に基づき、複数の生薬を組み合わせ配合比率も厳格に決められた処方薬です。


“漢方とは、中国の伝統医学の影響下に日本で発達した医療体系で、漢方医学ともいう。これに対して日本固有の医術を和方と呼び、江戸時代中期に日本に入ったオランダ医学を蘭方、以後のドイツ、イギリスのものを洋方と称した。現在、中国では伝統的な医学、医療を中医学と呼んでいる。中国医学の導入は、414年新羅から良医を招いたときといわれているが、隋、唐と直接交流が始ってから医書、医薬、医人を通して次第に体系を整えてきた。また、僧鑑真 (がんじん,688〜763) が教化のかたわら医療も伝えたという。古典としては張仲景の『傷寒論』『金匱 (きんき) 要略』 (200頃) 、李時珍 (1518〜93) の『本草綱目』などが有名。(ブリタニカ国際大百科事典 の解説より)”


漢方薬には、一般の人が薬局等で提供された適切な情報に基づき自らの判断で購入し、自らの責任で使用(セルフメディケーション)する一般用漢方製剤(294処方)と、保険診療で医師が診断してから処方箋に基づき使用する医療用漢方製剤があります。医療用漢方製剤は、健康保険が適用され、現在、148処方が薬価収載され、日常診療に広く応用されている。
それらの中で、生薬サイコ/柴胡は、現行、単味生薬製剤として承認されておりませんが、カンゾウをはじめショウキョウ・オウゴンなどと共に23処方(四〜十七味)が収載されており、下記に示すような多様な適応・効能効果が認められております(医療用漢方製剤 2018 ―148処方の添付文書情報―日本漢方生薬製剤協会参照)。

処方名適応、効能効果柴胡含量(%)
 乙字湯  キレ痔・イボ痔  29 
 加味帰脾湯  貧血・不眠症・精神不安・神経症  9 
 加味逍遙散  冷え性・虚弱体質・月経不順・月経困難・更年期障害・血の道症  13 
 荊芥連翹湯  蓄膿症・慢性鼻炎・慢性扁桃炎・にきび  6 
 柴陥湯  気管支炎・気管支喘息・肋膜炎の胸痛  20 
 柴胡加竜骨牡蛎湯  高血圧症・動脈硬化症・慢性腎臓病・神経衰弱症・神経性心悸亢進症・てんかん・ヒステリー・小児夜啼症・陰萎  18 
 柴胡桂枝乾姜湯  更年期障害・血の道症・神経症・不眠症  27 
 柴胡桂枝湯  感冒・流感・肺炎・肺結核などの熱性疾患・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胆のう炎・胆石・肝機能障害・膵臓炎などの心下部緊張疼痛  23 
 柴胡清肝湯  神経症・慢性扁桃腺炎・湿疹  9 
 柴朴湯  小児ぜんそく・気管支ぜんそく・気管支炎・せき・不安神経症  21 
 柴苓湯  水瀉性下痢・急性胃腸炎・暑気あたり・むくみ  18 
 滋陰至宝湯  慢性のせき・たん  9 
 四逆散  胆嚢炎・胆石症・胃炎・胃酸過多・胃潰瘍・鼻カタル・気管支炎・神経質・ヒステリー  40 
 十味敗毒湯  化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期・じんましん・急性湿疹・水虫  14 
 小柴胡湯  急性熱性病・肺炎・気管支炎・気管支喘息・感冒・リンパ腺炎・慢性胃腸障害・産後回復不全・慢性肝炎  29 
 小柴胡湯加桔梗石膏  扁桃炎・扁桃周囲炎  19 
 神秘湯  小児ぜんそく・気管支ぜんそく・気管支炎  10 
 大柴胡湯  胆石症・胆のう炎・黄疸・肝機能障害・高血圧症・脳溢血・じんましん・胃酸過多症・急性胃腸カタル・悪心・嘔吐・食欲不振・痔疾・糖尿病・ノイローゼ・不眠症  26 
 大柴胡湯去大黄  肝炎・胆嚢炎・胆石症・胃腸カタル・不眠症・肋間神経痛・動脈硬化症・高血圧症  26 
 竹ジョ温胆湯  インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠ができないもの  10 
 補中益気湯  夏やせ・病後の体力増強・結核症・食欲不振・胃下垂・感冒・痔・脱肛・子宮下垂・陰萎・半身不随・多汗症  8 
 抑肝散  神経症・不眠症・小児夜なき・小児疳症  10 
 抑肝散加陳皮半夏  神経症・不眠症・小児夜なき・小児疳症  7 

柴胡の薬能について

現行の日本薬局方において、サイコ(Bupleurum Root/BUPLEURI RADIX/柴胡)は「日本薬局方 サイコ」(医薬品コード5100075x1010:10g \46.10)として薬価基準収載されている。定量指標として、総サポニン(サイコサポニンa及びサイコサポニンd)0.35%以上、生薬の性状などの記載はあるが、用法・用量や効能・効果については、漢方処方の調剤に用いるということで、単味での使用について記載は無い。単味の生薬の効能効果を掴む事で処方が正しく使いこなされるものと思うが、現行、歴史的な積み上げに基づく漢方処方の使用法以外に情報は乏しい。中医学においては、Radix Bupleuri/”Chaihu”として現在も研究論文が見出される一方、本邦において、2000年代の現代科学に基づく柴胡単味の薬能をフォローする新たな研究展開が見出せないことは残念である。
限られた中、半世紀前の1970年の記載になるが「柴胡の薬能について」、日本東洋医学会設立(1950)に尽力された細野史郎(1899-1989)先生の論文が拝読でき、一部、下記に内容要略を記す。詳細は、原著を参照されたい。


細野史郎(京都): 柴胡の薬能について 日本東洋醫學會誌 21(1), 1-7, 1970

細野史郎、三宅悦子(京都翠心会): 柴胡の薬物試験 日本東洋醫學會誌 21(1), 8-14, 1970


柴胡の薬能:

<政和本草(重修, 1116, 中国)の神農本草経の部>「心腹を主り、腸胃中の結気、飲食積聚、寒熱邪気を去り、陳(ふるき)を推(しりぞ)けて、新を致す」(「心腹」を治すことが主で、いろいろな胃腸の障害を治し、解熱、強壮の作用がある)

<吉益東洞(1702-1773)の薬徴(1771、日本)>「胸協苦満を主治し、兼ねて、往来寒熱、腹中痛、黄疸を治す」

細野史郎氏により、『傷寒論』および『金匱要略』(3世紀、張仲景が原本を著したとされる)を出典とする10種類の柴胡処方の内、最も汎用され柴胡が主薬的な立場(柴胡の含有率10%以上のもの)にある6処方の各薬方に共通性のある作用を柴胡の薬能とすると;(1) 胸協苦満を治す作用, (2) 抗炎症作用, (3) 鎮静作用, (4) 抗アレルギー作用, (5) 解熱作用(往来る寒熱というような特有な熱型, 発熱状態), (6) 鎮痙作用, (7) 鎮痛作用, (8) 鎮嘔作用


柴胡単味の薬物試験:
<1965年、武田薬品工業KKで試験栽培されたミシマサイコの根を原生薬として顆粒状の柴胡粒を調製>1回0.3g、朝夕2回の服用で催眠作用、利尿作用、食欲・腸運動の亢進作用などを確認。大量摂取(1日2g相当量宛)により中毒症状(全身倦怠、浮腫み、お腹のハリ)が生じるが、甘草(1日1g相当量宛) の同時服用で解消


柴胡単味の毒性:
峰松澄穂、藤井祐一、細谷英吉(株式会社ツムラ・薬理研究所): 生薬の毒性に関する文献的検討 和漢医薬学会誌 5, 214-226, 1988 
サイコ(柴胡)の項引用およびあとがき抜粋:

毒性試験の種類と
被験物質
結果参考文献
粗サポニン分画の急性毒性試験dd系雄マウスにおけるLD50(50%致死量):経口投与4.7g/kg、皮下投与 1.75g/kg、腹腔内投与 70mg/kg
モルモットにおけるLD50:腹腔内投与 58.3mg/kg
一般症状として投与経路に無関係に鎮静症状(運動緩慢、呼吸緩徐、腹部着床)を示す
高木敬次郎、柴田丸:柴胡の薬理学的研究(第1報) Crude Saikosidesの毒性ならびに中枢抑制作用、薬誌89, 712-720, 1969
80℃、4時間水還流後の抽出液+抽出残渣の70%メタノール2時間抽出液を凍結乾燥
急性毒性試験:
Wistar系雄ラットおよびddY系雄マウスにおいて6g/kg 経口投与で異常なし、腹腔内投与で全例死亡。死亡例で、ラットは投与後10〜20分から鎮静症状(自発運動の抑制、腹部着床状態)、6時間以内に死亡、マウスでは投与10分頃から鎮静症状、死亡前2〜3分間強直性痙攣、2時間以内に死亡。田中悟ほか:生薬エキスの生体影響に関する毒性学的研究(第2報) 牡丹皮、甘草及び柴胡、薬誌106, 671-686, 1986
亜急性毒性試験:Wistar系雄ラット 1.5, 3g/kg 21日間経口投与:浸透圧上昇、クレアチニン量増加、LDH活性増加、γ-GTP減少、赤血球数・ヘマトクリットの減少、MCHCの増加、血清Free-Chol減少・T-Chol減少傾向、血清・肝GOT減少、血清γ-GTP増加、Crea・UA・K減少、BUN減少傾向、腎蛋白量・NADPH cys. red活性増加、下垂体相対重量減少(実重量に変化なし)、一般状態・自発運動量・体重・解剖所見・病理組織学的検査に著変なし。同上
水約1時間加熱後濾液を加熱、濃縮した煎液. 柴胡6gが50mLの煎液に. 亜急性毒性試験Wistar系雄ラット 10mL/kg 週6日実日数28日間経口投与:副腎重量増加(相対重量・実重量とも)、胸腺の相対重量低下、肝細胞質やや粗大顆粒状阿部博子ほか:柴胡剤の薬理学的研究(第1報) 各種臓器の重量変化および組織学的所見、薬誌100, 602-606, 1980

あとがき:
 生薬の毒性について、現在までに著者らが入手し得た文献をまとめたが、薬理学的研究に比較して、毒性に関する情報がはるかに少ないことは明らかである。また毒性報告についても大部分は急性または亜急性に関するものであり、変異原性試験はかなり実施されているものの、生殖機能に及ぼす研究は見いだし得なかった。漢方薬あるいは生薬について、一般に安全性が高いという認識が巷間に流布していると思われる。今回本資料でまとめたように、毒性学的な研究が少ないのも、そのような認識を反映しているのであろう。しかしながら、漢方薬による治療において証を誤ると時に激しい副作用が生じることがすでに傷寒論(大塚敬節:臨床應用傷寒論解説, 創元社, 大阪, pp.183-190, 1966.)に記載されていること、また薬理作用と毒性作用が表裏一体のものであることを考えると、今後さらに詳細な、そしてより多くの生薬についての毒性学的研究が期待されるとともに、毒性試験には抽出方法、試験動物を含む方法論の一定化も必要となろう。
 漢方薬の毒性と生薬の毒性とは、漢方薬の配合の意義が明確でない現在直接的な関係にあるとは断言できない。むしろ配合意義が薬効の増強、毒性の軽減にあることは簡単に推測できるため、さらに漢方薬の毒性を考えるうえでは、各々の処方とここでの生薬の毒性とを比較研究することが、漢方薬の配合理由を解明することにもつながると思われる。

ミシマサイコの根(柴胡)の薬能を地上部(葉/茎)で代替できない

Zhu L, Liang ZT, Yi T, Ma Y, Zhao ZZ, Guo BL, Zhang JY and Chen HB. Comparison of chemical profiles between the root and aerial parts from three Bupleurum species based on a UHPLC-QTOF-MS metabolomics approach. BMC Complementary and Altermative Medicine 2017; 17:305

北京協和医科大学付属医院(北京協和医院Peking Union Medical College Hospital)と香港浸会大学(香港浸會大學Hong Kong Baptist University)の研究者により、3種のBupleurum(ミシマサイコ属)の根と地上部の化学成分の種類と量が比較された。
【背景】Bupleuri Radix(Chaihu(中国):柴胡(日本))は、過去2000年間、炎症性疾患や感染症などの多くの疾患の治療にアジアで最も成功し、広く使用されている漢方薬の1つです。中国の薬局方では、柴湖はBupleurum chinense DC とB. scorzonerifolium Willd(セリ科)の乾燥した根として記録されています。しかし、ハーブの広範な需要は供給をはるかに上回る傾向があります。ミシマサイコ属の乾燥重量の70?85%を占める地上部を根の代替として使用できるかどうかは、ミシマサイコ属の種の持続可能な利用のための重要な科学的問題になっています。一方、中国南東部やスペインなど一部の地域では、すでにミシマサイコ属の地上部が民間薬に使用されています。したがって、ミシマサイコ属の根と地上部が、その生物活性と治療効果に影響を与える化学成分の種類と量が「同等」であるかどうかを明らかにすることは、このハーブの合理的かつ持続可能な使用の両方にとって非常に重要です。
【試験材料】Bupleurum chinense DC., B. yinchowense, B. falcatum の根と地上部の8サンプル(Table 1)について成分分析され56個のピークが同定された。
【結論】化学成分の種類と量の観点から、地上部を根の代替として使用することはできない。